前歯が出ている「出っ歯・上顎前突・上下顎前突」
上顎前突・上下顎前突とは
「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」とは、上の前歯や奥歯が前に出ているかみ合わせのことです。専門的には、Angle II級不正咬合に分類されます。罹患率は約20%です。
同じようなかみ合わせに、「上下顎前突(じょうかがくぜんとつ)」と呼ばれるものもあります。こちらは、上だけでなく下の前歯も前に出ているかみ合わせのことであり、奥歯の前後的なずれがないAngle I級不正咬合に分類されます。分類上は上顎前突とは異なるかみ合わせですが、上顎前突に準じた治療が行われます。
上顎前突・上下顎前突の原因
上顎前突の原因は、上顎と下顎の前後的な位置のずれという先天性のものや、指しゃぶりなどの習癖という後天性のものがあります。
上顎前突・上下顎前突の予防方法
指しゃぶりなどの習癖が原因の場合は、習癖を取り除くことによって、上顎前突を予防できる場合があります。
上顎前突・上下顎前突のデメリット
「見た目が悪い」という審美的な問題や、「ものがかみにくい」「口が閉じにくい」という機能的な問題、「前歯があたって怪我をしやすい」という口の健康の問題、などが挙げられます。
上顎前突・上下顎前突の治療方法
子供の場合
上顎前突は、その原因によって大きく二つに分けられます。ひとつは、上顎骨が大きいことが原因で起こる上顎前突です。この場合は、上顎骨がこれ以上大きくならないように、上顎骨の成長を抑制する治療が行われます。
- 使用する装置・治療方法:ヘッドギア、など
もうひとつは、下顎骨が小さいことが原因で起こる上顎前突です。この場合は、下顎骨がより大きくなるように、下顎骨の成長を誘導する治療が行われます。
- 使用する装置・治療方法:機能的矯正装置、マウスピース型矯正装置、など
大人の場合
上顎前突の治療を行うためには、上の前歯を大きく後ろに動かさなければならないので、前歯を動かすためのすき間をつくる必要があります。一般的には、前歯と奥歯の間にある歯(小臼歯)を抜いてすき間をつくっていきます。ただし、条件がよければ、歯を抜かずに奥歯ごと後ろに動かして治療を行う場合もあります。
- 使用する装置・治療方法:表からの白い装置(マルチブラケット装置)、マウスピース型矯正装置、など
上下顎前突の治療の場合は、上下の前歯を大きく後ろに動かさなければならないので、上下の小臼歯を抜いて前歯を動かすためのすき間をつくっていきます。こちらも条件がよければ、歯を抜かずに奥歯ごと後ろに動かして治療を行う場合があります。
- 使用する装置・治療方法:表からの白い装置(マルチブラケット装置)、マウスピース型矯正装置、など
上顎前突・上下顎前突の治療費の目安(税込)
子供の場合
437,800〜532,400円
大人の場合
831,600〜910,800円
上顎前突・上下顎前突の治療期間と通院回数の目安
子供の場合
- 治療期間:1〜2年
- 通院回数:12〜24回
大人の場合
- 治療期間:2〜3年
- 通院回数:24〜36回
上顎前突・上下顎前突の治療の流れ
子供の場合
- 相談
- 検査・診断
- 一期治療開始
- 一期治療終了
(以下は、子供の治療から大人の治療へ移行する場合) - 永久歯萌出完了または成長終了まで経過観察
- 再検査・再診断
- 二期治療開始
- 二期治療終了・保定開始
大人の場合
- 相談
- 検査・診断
- 二期治療開始
- 二期治療終了・保定開始
上顎前突・上下顎前突の治療例
上の前歯が出ている、口が閉じにくい(19歳 男性)
口元が出ている、下の歯がガタガタ(36歳 女性)
上の前歯が出ている、ガタガタが気になる(37歳 女性)
口元が出ている(26歳 女性)
上顎前突・上下顎前突の治療のリスク
- 歯:齲蝕(むし歯)、歯質の欠損、歯根吸収、骨癒着、歯髄炎、歯髄壊死
- 歯周組織:歯肉炎、歯周炎、歯槽骨骨吸収、フェネストレーション、歯肉退縮、知覚過敏
- 軟組織:外傷、やけど(化学的・機械的)、アレルギー(特にニッケルとラテックス)
- 歯科矯正用アンカースクリュー:破損、脱離、誤飲、歯根損傷
- その他:(歯などの)痛み、装置の破損・脱離・誤飲、顎関節症、細胞毒性、感染、放射線被曝、治療期間の長期化、治療目標が完全に達成できない、後戻り、非症候群性原発性萌出不全(Primary Failure of Eruption)
上顎前突・上下顎前突の治療のよくある質問
上顎前突の治療は、子供のうちにしたほうがいいのでしょうか?
上顎前突の治療は早期にしたほうがいいのかという問題については、2018年に「Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents」という論文が出されています。この論文の結論を簡単にまとめると、早期治療をしてもしなくても、治療結果は変わらないというものです。
この結果をどのように解釈するかについては、意見が分かれるところです。早期治療をしても治療結果に変わりがないのであれば、上顎前突の早期治療はするべきではないと考える先生もいらっしゃいます。しかし、私自身は、上顎前突に対する早期治療の効果はあることが示されているので、主訴の改善を早期に望むのであれば早期治療を行なってもいいのではないかと考えています。
参考文献
- Contemporary Orthodontics 6th Edition. William R. Proffit, Henry W. Fields, Brent Larson, David M. Sarver. Elsevier.
- 矯正歯科診療のガイドライン 上顎前突編
- Batista KB, Thiruvenkatachari B, Harrison JE, O’Brien KD. Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 13;3(3):CD003452.