上顎前突の治療については、公益社団法人 日本矯正歯科学会より「矯正歯科診療のガイドライン 上顎前突編」が公開されています。私自身もこのガイドラインの作成に参加しましたので、興味のある方はこちらもご覧ください。
子供の上顎前突に対する治療方針は、大きく二つに分けられます。
「上顎骨前方位による上顎前突」に対してはヘッドギアなどを用いた上顎骨成長抑制が、
「下顎骨後方位による上顎前突」に対しては機能的矯正装置を用いた下顎骨成長誘導が行われます。
マウスピース型矯正装置は機能的矯正装置と同様の作用機序で治療を行うので、「下顎骨後方位による上顎前突」に対して使用するほうが効果的であると考えられます。
上顎前突の早期治療が効果的なのかという問題については、2002年から2018年にかけて「Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents」というコクランレビューの論文が出されています。
この論文の結論を簡単にまとめると、早期治療をしてもしなくても、治療結果は変わらないというものですが、この結果をどのように解釈するかについては、意見が分かれるところです。
早期治療をしても治療結果に変わりがないのであれば、上顎前突の早期治療はするべきではないと考える先生も多くいらっしゃいますが、私自信は、上顎前突に対する早期治療の効果はあることが示されているので、主訴の改善を早期に望むのであれば早期治療を行なってもいいのではないかと考えています。
上顎前突の治療を行うためには、上顎中切歯を遠心移動させるための空隙を獲得する必要があります。そのために、一般的には小臼歯を抜去して治療を行います。また、大臼歯の前後的位置もずれているため、切歯の移動だけでなく大臼歯の移動も考える必要があります。
マウスピース型矯正装置で抜歯をともなう上顎前突の治療を行う場合は、特に注意が必要です。上顎中切歯の遠心移動だけでも、マウスピース型矯正装置に特有の動かし方をしないと治療がうまくいきません。
また、大臼歯の近心移動は、以前なら、マウスピース型矯正装置で行うと絶対に失敗すると言われていたほど、難しい治療になります。しかし、このようなリスクがあるからといって、本来抜歯が必要な症例に対して歯を抜かずに治療を行なってしまうと、治療後に満足できる治療結果が得られません。
やはり、どのような装置を使う場合であっても、まずは正しい治療計画に基づいた治療を行うことが大切になります。
参考文献
1. 矯正歯科診療のガイドライン 上顎前突編
2. Contemporary Orthodontics 6th Edition. William R. Proffit, Henry W. Fields, Brent Larson, David M. Sarver. Elsevier.
3. Batista KB, Thiruvenkatachari B, Harrison JE, O'Brien KD. Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 13;3(3):CD003452.