「犬歯低位唇側転位(けんしていいしんそくてんい)」とは、犬歯(前から3番目の歯)が外に飛び出した歯ならびのことです。実際には叢生の一種なので、専門的には、Angle I級不正咬合に分類されます。
基本的な治療は、叢生の治療と同じです。子供の場合は体の成長が利用できるので、犬歯が外に飛び出した歯ならびをなおすためには、成長を利用して歯列を前後方向や水平方向にひろげ、歯のはえるすき間をつくっていきます。
前後方向の拡大:ヘッドギア、リップバンパー、など。 水平方向の拡大:床拡大装置、など。
また、明らかに犬歯が外に飛び出してはえそうな場合は、犬歯がはえてくる直前に隣の歯を抜いて、自然に犬歯が並ぶようにすき間をつくる方法もあります。この方法では永久歯を抜いてしまうので、慎重に行う必要があります。
連続抜去法。
犬歯の飛び出しが軽度であれば、歯列をひろげながら、歯ならびも同時に整える治療を行います。
マウスピース型矯正装置、など。
犬歯のはえる位置がずれているときに、子供のうちに乳歯を抜いてすき間をつくれば自然に良くなるのか、という問題については、2017年から2021年にかけて「Interventions for promoting the eruption of palatally displaced permanent canine teeth, without the need for surgical exposure, in children aged 9 to 14 years.」という論文が出されています。
この論文は、厳密には犬歯低位唇側転位を対象としたものではないのですが、子供のうちに乳歯を抜いてすき間をつくるだけで犬歯の位置が自然に良くなるとはいえない、と結論づけています。このことから、子供の治療だからといって安易に乳歯を抜いてすき間をつくるだけの治療は、犬歯低位唇側転位の治療としてもあまり意味がないと考えられます。治療を行うのであれば、犬歯を並べるために必要なすき間を計算して歯列をひろげるような、本格的な治療を行う必要があります。
大人の場合も、叢生の治療と同じように、歯を抜いたり歯列をひろげたりして犬歯を並べるすき間をつくっていきます。
歯を抜いて犬歯を並べる場合、一般的には犬歯の後ろに生えている第一小臼歯(前から4番目の歯)を抜いてすき間をつくり、犬歯を並べていきます。本来であれば、外に飛び出した犬歯を抜いた方が治療は簡単なのですが、犬歯は他の歯よりも丈夫で長持ちする歯であり、笑った時の口元の印象にも影響をおよぼすため、治療が難しくなってもなるべく抜かずに並べるようにします。
犬歯の飛び出しが軽度であれば、歯を抜かずに歯列をひろげて犬歯を並べるすき間をつくっていきます。ただし、犬歯はもともと歯列の外側にはえてくるので、歯を支えている骨が非常に薄いことがあります。無理に歯列をひろげてしまうと犬歯の歯根が骨の外に飛び出してしまう危険性があるので、あらかじめ骨の厚さが十分にあることを確認してから治療を行う必要があります。
表からの白い装置(マルチブラケット装置)、マウスピース型矯正装置、など。
参考文献
1. Contemporary Orthodontics 6th Edition. William R. Proffit, Henry W. Fields, Brent Larson, David M. Sarver. Elsevier.
2. Benson PE, Atwal A, Bazargani F, Parkin N, Thind B. Interventions for promoting the eruption of palatally displaced permanent canine teeth, without the need for surgical exposure, in children aged 9 to 14 years. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Dec 30;12(12):CD012851.